諦めないGOLD



リナがオレの前から姿を消してどのくらいになるんだろうか。
 栗色の髪の女を見つけるたび、リナを思いだしては視線で追う。

 普通に考えればオレは捨てられた男と言う事になるんだろう。
 一方的に振られたというのにそいつを諦められない、我ながらなんて女々しい男だろうか。
 未だに旅を続けているのもパートナーを持たないのも、総ては彼女と再会した時一点の曇りもなく、
自分は彼女だけを求めているんだと証明するため。

 場当たり的に仕事を引き受け日銭を稼ぎ、立ち寄る街で聞き込みをする。
 昔ほど無茶をやらかさなくなったらしいリナの消息を求め、いろんな意味で苦手意識の強かった
魔道士協会に足を運ぶことにも慣れた。
 彼女と手に入れた斬妖剣を振るう度、こいつがなければ今こうして入られなかっただろうと思う。

 剣士としての腕には、それなりに自信はある。
 リナと出会ってからというもの、人一人分の人生じゃあ味わいきれないほどの修羅場を潜ってきたし、
彼女と別れた後も日々の鍛錬も怠ってはいない。

 だが、ガウリイ=ガブリエフという一人の剣士を超一流と言わしめるには、
技量に見合う強力な魔力剣の存在が必要不可欠だった。

 光の剣を失った時、リナにとっての足手纏いに成り下がったオレに
「剣を探そう」と差し伸べられた温かな手。
 その小さな手を取った時、ずっと前から胸の内側にあった想いが形を成して、
彼女は危なっかしくて目の離せない、保護すべき対象から愛する女性へと変化した。

 それ以降、それとなく態度で示してみたり小さな贈り物を手渡したりしながら、
ゆっくりと彼女が気付いてくれるのを待っていた。
 ストレートに気持ちを伝えるべきかとも考えたが、その頃は状況がそれを許してくれなかった……というのは、
今となっては言い訳だろうか。



 リナへの気持ちは自覚した途端にぐんぐん重みを増していき、
とある出来事を境にとうとう隠し通す事ができなくなった。



 オレの腕の中で悲嘆に暮れるリナは、不謹慎な言い方かもしれないが、とても、とても綺麗だった。
 どんなに世慣れていようとも、彼女はまだ柔らかな心を失ってはいないのだと感動さえしたものだ。

 そんな彼女の生き方をずっと支えて行けたらと、どんなに強く願ったことか。

 だから、新たな目的地を探すリナにそれとなく誘いをかけた。
 彼女の故郷で一時、傷ついた心を癒させながらゆっくりとこれからの話をしよう。そう思ってのことだったのに。



 眠りの中で魘されているリナに気付いた時、理性という檻はぶっ壊れてしまったんだ。
 足音を忍ばせ侵入した部屋、リナの眠る寝台に静かに近づいていくと、
指先の色が変わるほど強い力でシーツに縋るリナを見つけた。

 そんなものに縋る位なら、どうしてオレのところに来ないんだとか、今思えば身勝手すぎる考えだと分かる。

 だが、この時のオレはまるで余裕がなくて。

 深い眠りの中で苦しむリナを、自分が掬い上げてやろうなんて思いあがっちまった。



 硬く握り締められた左手を捕まえて、硬直した指を一本ずつ丁寧にシーツから引き剥がしていく。
こちらが終われば次は右手だ。
 一向に目覚めないリナの悲しげな顔を眺めて、早く目覚めてくれよと汗ばんだ額に唇を押し付けて。

 あの夜、目覚めた彼女に何をしたのか。
その先彼女をどう扱ったのかを後に友人に告白した時、思い切りぶん殴られたっけな。



 勝手に彼女の指に嵌めた銀の指輪。
 あれと揃いになるよう作らせていた金の指輪は、荷物袋の中に納まっている。

 本当はリナの故郷に着いてから手渡すつもりだったんだ。

 いつだって、好きな事を選べばいい。
 いつだって好きなものを手に取ればいい。
 リナへの気持ちは、何を選ぼうと変わらないからと。




 ああ、ちくしょう。
 こんな夜は無性にリナに会いたくなる。
 とにかくここは静かすぎるんだと、ガウリイは乱暴に髪をかき乱した。